オーサカ・ペイフォワード

 

会う坂と書いて、大阪と読む。
そんな詩があったような気がするが、まあどうでもよい。

昨日、夜の9時ごろ、大阪日本橋駅で切符を買おうとして、
地下鉄の路線図を見上げていたとき、
背後からおっさんが話しかけてきた。

街中で他人が声をかけてくるということ。
一般的に、それはうさんくさい事にまきこまれることを意味する。
私はいぶかしげに、おっさんの方へ振り向く。おっさんは言った。

コレ、アゲマス。
マダ、ツカエマスカラ。

あまりに唐突すぎて、外国語のように聞こえる。
ふあ、あり、がとうごうざいます。
条件反射的に手が出て、そしてつきなみの定型句をぼそっとつぶやく。
彼はカードを私に渡すやいなや、さらりと立ち去った。
残された私はこの思わぬ贈品をまじまじと見つめる。

どうやら、これは地下鉄の1日フリーパス券らしい。
確かに、マダ、ツカエル。

嗚呼、ありがとう、おっさん!
たぶん、おっさんは近鉄かJRで帰るから、
もう地下鉄の切符はいらなくなったのだろう。
そして、地下鉄の改札でたまたま出会った私に、コレをくれたのだろう。

いやあラッキーだなあ、
と地下鉄の中でカードを改めてまじまじと見る。
ふむふむ、んんん・・・。
裏面に印された乗り継ぎ駅にいまいち脈略がない。
あのおっさん、昼間は大阪で何をしていたのだろう?
いや、もしかすると、あのおっさんも誰かからコレをもらったのか!?

なんということだ! このカードは所有してはいけない代物である。
人の手から手へ渡っていくことを宿命づけられたカードなのだ。
それを私で止めてよいだろうか。いや、よくない。
私も駅についたら、コレを誰かにプレゼントしよう。
うん、そうしなくてはいけない。

しかし、下車した深夜の動物園前の改札に人影はなく、
地上に上がっても、誰もいない。
向こうの方で、若者の口論だけが聞こえてくる。
日本語ではないようだが、
人は怒るとみな似たような言語になる。

ため息交じりに夜空を見上げると、巨大な通天閣がのっそりと出現し、
艶やかなネオン光線をしんみりと新世界に放っていた…

ということで、1日限定の贈与の連鎖、
オーサカ・ぺーフォワードは私で終わりを告げたのだった。
やんぬるかな。
交換の禁忌に触れた私は、たぶん、呪われるにちがいない。

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追記:
映画&小説の邦題「ペイフォワード」は正確にはPAY IT FORWARDである。
SNSと関連で、いつかこの物語についても触れたいと思っている。

One thought on “オーサカ・ペイフォワード

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