精読『ファイト・クラブ』その4。
ファイト・クラブには睡眠薬とステロイドの薬物の名前がでてきます。
小説版から確認しておこう。
I just wanted to sleep. I wanted little blue Amytal Sodium capsuls, 200-milligram-sized. I wanted red-and-blue Tuinal bullet capsules, lipstick-red Seconals. p. 19
僕はただ眠りたかった。二百ミリグラムサイズのちっちゃな青いアミタールのカプセルが欲しかった。赤と青のツイナールのカプセル、真紅の口紅に似たセコナールが欲しかった。邦訳p. 19
この件は、映画ではシーン0:05:56に対応している。戸田さん、字幕が間違っていますね。「ブルーのツイナール」ではなく「レッドとブルーのツイナール」です。
Amytalは映画に出てこない。これは注射用の商標で、錠剤はAmobarbitalアモバルビタール、イソミタールと呼ばれています。睡眠薬はジェネリック医薬品三昧で何が化学物質名で商標なのかよくわかりません。パテントもころころ譲渡されていく。日本ではアモバルビタールが三晃、イソミタールが日本新薬です。AmytalはMarathon社ですが、これがいつからの権利なのかは、よくわかりません。
TuinalとSeconalは商標で、どちらも実在するものです。これは商品を広告するというより、主人公の薬中のような末期的症状を表現するレトリックですね。当時ちなみにツイナール、セコナールはインドのRanbaxy Laboratories社が権利をもっていたようです。この会社は第一三共の傘下ですが、数年前に巨額損失を出しましたねえ。そして現在ではMarathon社のものですね。巨額損失の穴埋めで売り渡したのかなあ。
これは仮説だけど、1999年の時点で、AmytalがMarathon社のもの、TuinalとSeconalが当時のRanbaxyのものだとすれば、三つ並んだ睡眠薬は競合商品ということになる。作家のパラニュークも知らなかっただろう。もし映画のスポンサーにRanbaxyがついていたとすれば、競合品のAmytalは台詞から外してくれ、となるんじゃないか。
これは深読みだろうか。もし尺の都合で三つの薬品名の内、二つだけを採用するなら「青色のアミタール、赤色のセコナール」のほうがバランスがよいはずだ。まさに戸田さんが間違った訳のように。しかし、実際にはそうならなかったのはなぜだろう。