エリック・サティの世界~絵本・DVD・CD~
Erik Alfred Leslie Satie (仏: 1866.05.17~1925.07.01)
サティの音楽を聞いたことがありますか?
彼の名をご存知ない方も、
『ジムノペディ』や『ジュ・トゥ・ヴ(あなたが欲しい)』といった楽曲は、
TVCMや映画等で、一度はどこかで耳にされたことがあるかと思われます。
サティは、 音楽界の異端児とされた作曲家です。(といっても、彼は「音響測定家」という謎の職業を自称)
今となっては街で普通にあふれる「BGM」の元祖、『家具の音楽』を作ったのも彼でした。
(当時は音楽は気を引き締めて聴くものであり、聞き流したり無視したりする音楽の聞き方はありえませんでした)
今回紹介したいのは彼の音楽の素晴らしさ・・・というよりも、彼自身の謎めいたセンスです。
死後、彼のアパートからは、古新聞の山、金属製の飛行船、100本もの黒い蝙蝠傘、7年間ほぼ毎日着続けた7着の黒いスーツ、葉巻の木箱の中に4000枚のカード(「魔法の城貸します」「赤いポットの宿」「演奏できない楽器(脳で聞く)」等の架空のメモが書いてある)等が発見されました。ちなみに死に際の最期の一言は「牛が・・・!」だったそうです。
そんなサティがどういう人物だったのか、彼についてのおすすめの絵本・DVD・CDを取り上げることで、少しでも知っていただけたらと思います。
(クラシック音楽理論的な難しい話はできないので、そこは割愛させてください。)
≪絵本≫「サティさんはかわりもの」M.T.アンダーソン(文)ペトラ・マザーズ(絵)今江祥智&遠藤育枝(訳). BL出版, 2004.
かわいいサティおじさんが表紙のこの絵本。(なんと今江祥智さんが訳に…!)
漢字も多く、どちらかといえば大人向けの1冊です。
サティの生涯を綴った伝記的な内容ですが、彼の人柄がよくわかります。
カフェ「黒猫亭」では、ピカソやコクトーなどの芸術家と交流。
シュザンヌ・ヴァラドンと出会い、生涯にただ一度の恋愛をするのですが・・・。
彼女の恋人とのデートになぜかついて行って、雇った男の子に太鼓を鳴らして先を歩かせたり・・・
演奏指示も独特です。
(他にも、彼は「ピアノの蓋で思いっきり指を挟んでから」「頭を開いて」「歯の痛いナイチンゲールのように」「1個のじゃがいもで自分を引っ掻く」「いいぞ!その調子!」…等、分かるような分からないような表現を用いて奏者に楽譜上でコミュニケーションしたそうです。)
かわいいイラストとサティの言葉が印象的な一冊です。
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≪DVD≫「エリック・サティの世界~誤解と理解~」エリック・サティ (出演)ジェネオン エンタテインメント, 2008.
このDVDでは、サティの音楽のしらべにのせて
彼の生涯やその音楽の内容をより詳しく解説してくれます。
映像作品的にも見入ってしまうシーンが多くあります。
サティ本人映像も!(『本日休演』より)
フランソワ・ピカビアとのバレエ作品(マルセル・デュシャン、マン・レイ等、ダダのメンバーも参加)の一部です。
この作品は、背景には370枚もの鏡を用い、振り付けも台本もダンサーの即興、お客さんに向かって大砲ぶっ放したり、牛が先頭を歩くお葬式をしたり…とにかくめちゃくちゃだったといいます。
しかも『本日休演』という演目なので、会場に来た人の中には本当に休演と勘違いして帰った人も。
サティはこの演目に関して、このようなことを言っています。
―――「いつになったらすべてを説明するという習慣をやめるのでしょうね。」
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≪CD≫「Я・K works satie piano album」ユニバーサルクラシック、1998.
パスカル・ロジェ、アラン・マークス(演奏) Я・K(プロデュース)
LUNASEAの河村隆一さん(Я・k)が総合プロデュースしたこの1枚。
今までサティアルバムをいろいろ聞いてきましたが、一番のお気に入りです。
ジャケット写真、楽曲のピアノ演奏、Я・kさんのエッセイ文章など、シンプルながらもすべてに酔えます。
至福や悲哀をいっぺんに聞けるような・・・サティのアルバムとして一番しっくりきたのです。
代表曲から、マイナー曲まで。
初めてサティを聴く方でもきっと気に入っていただけると思います。
個人的に『貧しき者の夢想』の音と音の間に流れる余韻はここの収録曲が最もうっとりさせてくれます。
ちなみに、世界一長い楽曲としてギネス認定されている『ヴェクサシオン』は収録されていません(笑)
(この曲はサティがいやがらせ目的でつくったもので、同じ不気味なフレーズを840回繰り返すという鬱曲)
現代になってその楽曲が評価されるようになったエリック・サティ。
彼の生涯は、彼のこの言葉に集約されているように思います。
ーーー「私はとても古くさい時代にとっても若く生まれて来た・・・。」(E.サティ)
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私が彼から学んだことは、“「自分」を思うままに表現すること”です。
自分を大切にして、時には無意味なこともしてみる。
想像力と創造力をもって、自分の世界をつくり、そこに住む ということです。
新しいことに茶目っ気を持って挑戦できるのは素敵ですね。
サティが墓地に埋葬されている間、その教会では誰かの結婚式がとりおこなわれていたそうです。
うれし悲しい、そんな音楽。子どもみたいなサティの世界を少しでも知っていただける機会になればと思います。
~参考~
「うぬぼれ少女百貨店」http://unubore.michikusa.jp/index.html
「エリック・サティ覚え書」秋山邦晴. 青土社, 1990.
「エリック・サティ」アンヌ・レエ(著)村松潔(訳). 白水社, 2004.
「エリック・サティ詩集」エリック・サティ(著)富保男(訳). 思潮社, 1989.
「こどものためのサティ」エリック・サティ(作)秋山邦晴(訳)立松和平(文)篠崎正喜(絵).評論社, 1990.