網状資本論3@ブローデル。

 

フェルナン・ブローデルは、ドイツ軍の捕虜となっていた間、監獄の中で『地中海』を著した。その偉業は伝説的に語られることがあるが、けだし学者の日常生活と囚人のそれはあまり違いがないように思われる。しかも、フランス人であるブローデルが、ドイツ語の本を読むきっかけになったのだから、ブローデルにとって捕虜時代は、スパルタ語学留学としても有益だったと言える。

こうして、ゾンバルトとブローデルの邂逅は、監獄の中の書庫で果たされる。ブローデルは、ゾンバルトの地理学的な社会経済史を継承し、西欧のよりダイナミックで暗黙的な交易ネットワーク史を打ち立てた。

日本史であれ、世界史であれ、なぜ歴史の主体は「王と奴隷」や「武士と農民」に限定されるのだろうか? この問いは、なぜ歴史は「国家」=テリトリーというものを前提するのか?という論点と本質的に同種のものである。王であれ奴隷であれ、これらの階級は、所与のテリトリー内でしか存在しえないものだからだ。

一般的に、我々の知る歴史は国家の歴史である。しかし、国家という統治構造自体が歴史的産物でしかないにもかかわらず、これが太古から一貫してあるかのように歴史を語ってしまう。そのとき歴史学は神話へすり替わる。実際のところ、近代国家以前の国家は都市間の交易ネットワークとしてあり、しかもそのネットワークは交錯し、領土から領土へ結びつけてはまた途絶えたりし、絶えず安定したものではなかった。

ブローデルは国家=テリトリーの歴史から、交易=ネットワークの歴史へと転換した。ブローデルの世界では、王や農民に代わり、商人が主人公となる。その舞台はヨーロッパ大陸では無く地中海だ。概念的にも地理的にも、ここに歴史学におけるブローデルの地政学的転回が存在するのである。

[mappress mapid=”347″]

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください