マーケティングをしないというマーケティング@奈良。

 

奈良は商売が下手でしょう? 京都とかよりも。

奈良の商売人と話していると、決まり文句のようにこのフレーズが出てくる。ここで「商売」というのはマーケティングのことを指していると思うのだが、むしろ奈良はマーケティングしないところに魅力がある。

マーケティング戦略とは、大量生産を前提にして、いかにその余剰を非理性的な消費者に押し売りするのか、ということがその命題となっている。だが奈良の特産品は、そもそも大量生産できないし、する気もないのである。

例えば、奈良の酒蔵は、ほとんどが家族経営の酒蔵で生産されている。その理由は、従業員を雇うと人件費がかさみ、かえって利益が減るからだ。酒に限らず、奈良の特産品のビジネスモデルは、マニュファクチュア的な小商いで、少量だが良質な商品をきっちりさばいていくサイクルで安定している。

ここでもし、マーケティングを導入してしまうと、この均衡は否定的な意味で失われるだろう。一過性のブームは、イチゲンサンに食われて、普段その商品を購入してくれる顧客に商品がわたらなくなる。しかも、イチゲンサンは所詮にわか消費者でしかなく、熱が冷めればそれまでで、継続的に商品を買ってくれはしない。

したがって中・長期的な視野で考えれば、従業員を雇い、生産量を増やし、マーケティングでこれを裁いていくというのは、かなりのリスクがつきまとう経営スタイルである。仮にそのリスクを克服して近代的なマネジメントを確立できたとしても、中川政七商店のように「奈良のようで奈良でない」商売となってしまうだろう(はたして、あれほどの大量の蚊帳はどこで作っているのだろうか?)。

奈良の特産品を集めたアンテナショップは、本来は観光客を意識して店を構えたはずなのだが、実際に買っているのはそのクオリティを知っている地元の者だったりする。これは皮肉な話だけれども、しかし本来あるべき地産地消の形であり、また正直な商売、すなわちマーケティングをしないマーケティングなのだと思う。

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