第三のパラメーター。

 

写真とは現実の瞬間を切り取るものだ、とよく言われます。より具体的に言えば、レンズの絞り値と本体のシャッタースピードで、光の取り込み具合をコントロールする作業です。絞り値とシャッタースピード、この二つのパラメータの組み合わせで写真は成り立っています。さらに、パラメータの制御方法によって、次のような基本モードが存在しています。

A(aperture=絞り)モードだと、絞り値をユーザーが自由に変えていき、これに適したシャッタースピードをカメラ側が考えます。絞り値(=Fナンバー)とは眼でいうところの瞳孔の大きさです。Fの値が低いと瞳孔が大きくなり光がカメラ内部に多く入ります。暗所での撮影時のみならず、背景をぼかたい時もこのF値を下げます。

Sモードでは、Aモードとは反対に、シャッタースピードをユーザーが任意にコントロールし、絞り値をカメラ制御で追従させます。例えば、滝の撮影などは、シャッタースピードをわざと遅くして、水流のブレを流れとして表現したりします。

Mモードは、ユーザーが二つのパラメータを同時にマニュアルで操作します。二つの値によって液晶画面の露出(明るさ)が変わっていきます。


 

さて以上の話は、まあ、どこにでも書いてある情報なんですが、これを動画目線で考えてみたい。伝統的に、動画の世界はSモードです。シャッタースピードは1/24、1/30、1/60のどれかで固定して撮影します。なぜかと言えば、映画のフィルムが1秒間に24コマ(フレーム)だから。デジタル化が進んでも、現在のハリウッド映画もいまだに秒間24フレームです。ちなみに、バカチョンカメラやハンディカムは、両方の値をカメラにまかせるPモードですね。

シャッタースピードを変更できない場合、絞り値によって露出をコントロールすることになります。ところで、今どきの写真用カメラのシャッタースピードは最速で1/4000や1/8000です。日中の明るさでは、それぐらいのスピードで撮らないと眩しすぎます。つまり1/24、1/30、1/60固定で撮る場合、晴天での撮影は絞りでも対応しきれず、露出オーバーとなってしまう。

さて、この問題にどう対処するか? 簡単に言うとグラサンをかけます。ここでグラサンのことをカメラの世界ではND(Nutral Density)フィルターと呼びます。色味を変えずに光の透過率だけを変えるフィルターです。写真の世界ではレンズの先端に付けますが、動画の世界ではカメラ本体内部にNDフィルター機構が実装されているものが多いです。最近では、液晶技術を用いたより電気的なアプローチも存在します。これに関してはビデオサロンのインタビュー記事が参考になります。

さらに、最近流行のデジ一動画になると話は一層ややこしくなります。先にも言ったように、動画ではシャッタースピードは固定されます(シャッタースピードを上げるとパラパラ漫画みたいになるようです。ただ、個人的には一概にはそう言えないと思っていますが)。他方で絞り値も、背景をぼかしたいので開放固定となってしまう。背景をぼかさないのであればデジ一で撮る意義はあまりありません。パンフォーカスなら、いわゆるハンディカムやiPhoneでいいわけですから。

そこで第三、第四のパラメータが必要となります。一つが先のNDフィルターです。本来は濃度の違うフィルターを付け替えるのですが、最近は可変NDフィルターが登場し、リングを回してリアルタイムに濃度を調整できます。逆光や晴天時には、この値の変化が、絞り値・シャッタースピードに対する第三のパラメータとなり得ます。

もう一つはISO感度です。フィルム時代はフィルムを使い切らないとISOを撮影中に変えることはできませんでした。さらにデジタルカメラ黎明期においても、ISO感度を上げることはノイズまみれの画質を意味し、これを積極的に露出制御のパラメータと見なすことはありませんでした。現在では、高感度ISOは実用域に達していますが、先に挙げた歴史的経緯や固定概念のせいか、既存メーカーのUIは、ISOを積極的に露出制御のパラメータと見なすようにはなっていません。

そのようななか、今春登場するPENTAX K-1は注目すべき機種だと言えます。K-1には右肩に三つのダイヤルがあり、その一つをISOに割り当てることができます。①の項目をISOに設定し、②のダイヤルでISO感度を変更します。
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これはリコーらしい現代的なUIだと言えます。特にデジ一動画では重宝すると思います。しかしながら、この機種はあまり動画に力は入れていないのが残念な点です。このアイデア自体は後続メーカーに期待したいところですね。

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