石井陽子『しかしか』レビュー。
シカの街、奈良でシカ写真集『しかしか』を買うのは、ちょっと恥ずかしい。
それは、京都で地元民はスルーの「京都勝牛」をわざわざ食べたりとか、大阪千日前で本物の芸人を尻目に「芸人の着ぐるみ」と写真を撮ったりとか、都民が「東京バナナ」を自宅用に購入する痛さに通ずるものがある。
本物が目の前にあるのに、わざわざそんなもん買わなくてもいいじゃないか! だがしかし、私はナポリタニスト兼シカ写真家である。その定めゆえ、この本を避けて通ることはできぬのだ! ! いざ購入、1600円+消費税也。
前から、こんな感じの写真集が出るだろうとは思っていた。というのも、これまでのシカ写真集は山口勇のように男性的でじじ臭いものが多かったからだ↓。
対して『しかしか』は、タイトルと表紙に象徴されるように女性目線のポップさとゆるさ(うんこぶりぶりする瞬間とかもある)でシカを捉えている。要するにイマフウの動物写真集なのだ。『しかしか』に登場するシカは半分以上が奈良県民で、他府県の読者なら、たぶん奈良に観光に行きたくなると思う。
個人的には、ちょっとだけ出てくる広島県宮島の海辺のシカ達がとても新鮮だった。奈良県民が『しかしか』を読んだら宮島に行きたくなる、かも。やっぱ、奈良シカよりも泳ぎが上手いんだろうか?
ところで思うんだが、この本、奈良編と宮島編の二冊に分けるべきだったんじゃないかなー。奈良という場所性、四季という時間軸のなかでシカを語って欲しかった。いろんな場所のそれっぽいシカ写真が望みなら、グーグル画像検索で「シカ」と入力すれば良い。そんなご時世のなか、はて、著者はこの本で一体何を訴えたかったのだろうか?
撮影技術にしても、まあ意図的なんだろうけれど、そんなに上手くないんですね。夜のシカは真っ暗とか(そこはα7sだろうよ)、走ってるシカはブレブレとか。だからなおさら、なーんかネットで見たような感じの写真だなー、ん?っつーかグーグルでよくね?と思ってしまうわけ。
で、こういう批判を回避しようと思うと、表現方法は自ずと「ならねこ。」っぽくなると思うんですよねー。え? ええ、自画自賛オチですともw